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阿佐ヶ谷の片隅で囲碁を愛する店主が運営する喫茶店「天文図舘」&「一冊本屋 青い小窓」は、時空を超える悠久のノスタルジック・スペース

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私が初めて「イゴセカ!」で記事を書かせてもらった「渋谷ボードゲームカフェHigh Fiveさんで「囲碁体験イベント」に参加してきました!」の取材にて、一番印象に残っていたのが、当日の囲碁インストラクターをやってくださった山城隆輝(やましろ りゅうき)さん。記事執筆にあたり、山城さんのことを調べていたら、なんと阿佐ヶ谷にて喫茶店を経営されていることを知り、しかもその喫茶店の名前が「天文図舘」だったことで、私のボルテージは一気に上がってしまいました。何を隠そう天文好きな私。最近の愛読書は「宇宙と物質の起源(講談社ブルーバックス刊)」、好きなアニメは「チ。―地球の運動について―」だったりする私ですから、これは取材に行かねばと担当者にお願いして実現したのが今回の取材です。囲碁と宇宙の深淵を探求しに、いざ阿佐ヶ谷へっ!

目次

囲碁のインストラクターがなぜ喫茶店を?
ノスタルジーとは
置き手紙
「時間」について
ノスタルジーと囲碁
「一冊本屋 青い小窓」
「一冊本屋 青い小窓」への思い

囲碁のインストラクターがなぜ喫茶店を?

まずもって山城さんに聞きたかったのは「囲碁のインストラクターさんが何故、喫茶店を始めたのか?」ということでした。山城さんは開口一番、単刀直入にその答えを教えてくれました。

山城「天文図舘は、囲碁カフェではなくて、『ノスタルジー』をテーマにした喫茶店なのです」と。
…なんと、囲碁はまったく関係ないのかっ!? イゴセカの取材なのに大丈夫かと一瞬ひるみましたが、ここからが山城さんワールドの開幕。とてもすごいのです。

写真:おだやかな言葉の中にも、芯を感じさせられる山城さん。いろいろな時を見てきたようだ。

山城「人生の中で落ち込んだり、ちょっと勇気が欲しかったり元気を分けてほしい時ってありますよね。そんな時にたとえば夕日の落ちる砂浜にいたりとか、夜景の見える丘にいたりとか、ちょっとエモーショナルな空間にいると、なんか心がちょっと洗われるというか、そういうことにとても興味があったのです。それを常に感じられる空間があればいいなと思っていて、ちょうど僕は喫茶店が好きだったので、じゃあ、自分で喫茶店をやってみようっていう感じで始めたのが天文図舘なのです」

お話を聞いていて、確かにノスタルジーというのは「郷愁」や「望郷」といった心の中にある懐かしさ、を表す語であるとこれまで認識していましたが、ではその身をノスタルジーの中に置いたときに感じる、あの、えも言われぬ「やさしさ」と「あたたかさ」は何なのだろうと考えさせられたのです。そして今私のいるこの天文図舘にはその「やさしさ」と「あたたかさ」が醸し出されているのです。確かに何なのだ、この空間は!?

山城「じゃあそのノスタルジーっていう感情はいったい何なのだろうと思ったとき、たとえば夕日と同じ紺色とオレンジ色の紙をコップに巻いた時に、それは果たしてノスタルジーなコップなのだろうか。みたいなことから始まって。ノスタルジーを自分なりに、分析して再構築していったのです」

ノスタルジーとは

天文図舘のノスタルジーな空間も相まって、山城さんのお話に惹き込まれていきます。

山城「大学卒業後、就職したのですが、そこを辞めてヒッチハイクで日本中を回っていたことがありまして。その時にいろいろな景色を見ました。その景色っていうのが自分の中でとても大きかったのですね。ただ、景色と言っても僕の中で感じていたのは、たとえば有名な景勝地と言われるような場所でも、実際そうでもないかなあって思う時もあれば、逆に新宿の雑居ビル街でも、とてもすごく綺麗に見える瞬間があって。これって、いったい何なのだろう…っていうのがすごくあって。で、僕が行き着いた結論は『』だったのです。光をうまく操ることができれば、空間を綺麗に演出することに気づいたのです」

確かに、「夕日」の光にあるのは、ノスタルジックな感じがします。すこし直接的な「朝焼け」とも違うやわらかであたたかな光。ノスタルジーの原点かもしれません。

「結局、光によってうまく『影』を作り出すことができれば、空間をうまく演出することができるっていうのが、僕のノスタルジーの結論なのです」

写真左:お客様の「手紙」が数多く挟み込まれた書棚、写真右:光と影の空間


天文図舘の装飾物には強く光の当たる部分、影ができる部分が絶妙に配置されています。人々のノスタルジーを掻き立てる秘密は、こうしたお店作りにあったのですね。

山城「会社とかにある蛍光灯の明かりのある空間。光が同じようにありますけど、あれには別に何も感じない。そうなった時に、やっぱり違うものは影があるか否かっていうことだと思うのです。木漏れ日って、やっぱり影があるから光が強調されるし、隅っこが暗いからこういう光が強調されるし。なので、喫茶店を作るときはこれが肝だと感じていました」

置き手紙

天文図舘が訪れる人のノスタルジーを増幅させる、もう一つのからくりが「置き手紙」です。
我々が取材させてもらっている天文図舘の2階では、置き手紙を書いて机棚や本棚に差し込めるというユニークな仕組みがあります。

手紙の宛先は自分でも他人でも、過去・現在・未来でも大丈夫。誰でもその時に感じたことを思い思いに書いて保存し、そしてそれらの手紙は誰でも読めるようになっているのです。いったいこのからくりはいつ生まれたのでしょう?

山城「これもヒッチハイク中に立ち寄った道の駅だったり、宿泊先の旅館にあった備え付けのノートによく書かれていた『何年何月、どこどこから来ました。僕は英語が大好きです』みたいなものを見まして。それって、書いた人がいた時間も違うし、その人たちが来た場所も違うのに、同じような感情を共有していることがすごくいいなと思って。…でも、それをただのノートにしていると味気ないから、手紙形式にして、それをそのまま内装にしちゃおうと思いついたのです」

自分で書いた手紙を、誰かが読む。誰かが書いた思いを、自分に重ね合わせる。時には、年を重ねた自分が今一度読んで、その時の自分に寄り添う。天文図舘で行われる「時空」を超えた人々との交流。ノスタルジーを突き詰めたときに出会うのは時間と空間のランデヴーなのかもしれません。

写真:誰かに徒然と手紙を書いてみる時間こそ、ノスタルジックな瞬間

「時間」について

「これは個人的な価値観なのですけど、最大の価値を持っているものは『時間』だと思っていまして。僕が囲碁に惹かれたのはやっぱり囲碁の持っている歴史なのです。3000年から4000年も前の中国で、占いから始まった囲碁。平安時代あたりに日本に渡ってきてからルールがほとんど変わらずに続いているのです。時間に淘汰されずに残っているなんて、ものすごく神秘的なことだなって。いわゆる『古碁』と呼ばれる、江戸時代に打たれたものとか見ていたりするとやっぱり面白いなって思いますし」

なんと、古碁というのは知りませんでした。やはり時代によって打ち方が変わるそうです。

「例えば江戸時代に多用された『秀策のコスミ』っていう手があるのですが、これは僕がやっていた時はちょっと甘いと言われていて、つまり攻めの効率が悪い手とみなされていたのですけれど、今になってAIが普及した時に、AIがその手を打ち始めるようになったのです。しばらくはその手がやっぱり悪いって言われていたのですが、だんだんとこれはいい手だなっていう感じで再発見されたみたいなことがあったりして、時代が巡り、秀策の素晴らしさがまたAIによって発見されたっていうのはすごいことだなと思うのです」

コスミとは「すでにある自分の石から斜め隣に打つ手」のこと。長らくプロ棋士からは敬遠されてきた手であるらしい。

「AIって、もう今の世界のトップ棋士でも敵わないくらい強いのですけど、これって本来は人間が数百年後にたどり着くはずだった世界だと思うのですよね。ということは、200年前の囲碁と200年後の囲碁が同じような手を打っている。これってすごいことだと思いませんか?」

写真:割れた碁石に「金継ぎ」で新たな命を吹き込む。これも山城さん流。

ノスタルジーと囲碁

囲碁の世界には「定石」があるわけですが、その定石をも、時空を超えて碁盤上で切磋琢磨している様は、囲碁の奥深さと面白さ、山城さんのノスタルジー研究にも通じるものがあるように思えました。

なお、天文図舘では初心者向けの囲碁教室が隔週月曜日に開催されています。喫茶店として来客されたお客様が、初めて囲碁に触れて魅力に目覚め、教室に通われている方も多いそうです。吉祥寺で50年以上続く碁会所「秀哉」の講師が監修された教材を使用し、ゼロから人と対戦出来るようになるまでサポートしてもらえます。詳細は天文図舘のインスタグラムをご確認ください。

【天文図舘】
住所:東京都杉並区阿佐谷2-1-7(※住所はじめ下記店舗情報ご確認ください)
営業日・時間:水曜日を除く13:00-20:00(金曜日は17:00閉店)
最寄駅:JR阿佐ヶ谷駅徒歩3分
URL:https://tenmonzukan.com/
SNS:インスタグラム

「一冊本屋 青い小窓」

そんな天文図舘にて初めて囲碁に触れ、喫茶店の常連となったチョークアート作家の遠藤涼子さんが、山城さんと意気投合し、店主を務めるシェア型本屋という新しいシステムの本屋さん「一冊本屋 青い小窓」さんにもお邪魔してきました。こちらは天文図舘の姉妹店であり、天文図舘から歩いて10分程度のところにある、2024年10月にできたばかりの新店です。

「青い小窓」という名前が示す通り、鮮やかな青色で仕切られた小窓がたくさん出迎えてくれます。小窓の一つ一つには各オーナー肝入りの一冊の本が飾られています。お客様は自由に本を手に取って、気に入ったらその場で買うことが可能です。本が売れたら、遠藤さんが一冊ずつ補充してくれます。

こちらの小窓オーナーには、1ヶ月につき3,000円でなれるそうです。自分がお勧めしたい書籍があれば、その書籍を置いておくだけ。ある人は大好きな小説を。ある人はお気に入りの写真集を。遠藤さんはお気に入りの画家ジャン=ミシェル・バスキアの文庫本サイズの画集を置いています。

本を購入された方は、オーナーからの「手紙」が読めるというのもこのお店ならではのシステム。山城さんの「時空を超える」アイデアが、ここでも活かされています。

遠藤「購入した人しか見られない手紙の中には、本に対する思い出であったり、エピソードが書かれているので、オーナーとお客様との交流っていうのが、そこにはあるのですね。実際、その本を購入していただいたお客様で、逆にオーナーへお手紙を書いてきてくださった方もいて、私からオーナーへお手紙をお渡しして、双方に交流できたというのは、ものすごく嬉しいことでした」

写真:遠藤さんお気に入りのバスキア画集とお手紙とともに。遠藤さんのインスタグラムには店内にも飾ってある遠藤さんのかわいいイラストがたくさん紹介されている。

「一冊本屋 青い小窓」への思い

もともとネット記事で天文図舘さんを知って、「素敵なところだな」と思って、ちょっと勇気を出してお店に入った遠藤さん。囲碁教室に足を踏み入れたのも、天文図舘さんのSNSに書いてあった山城さんの「日頃のルーティーンにちょっと飽きている方へ」という囲碁教室の告知文を読んで、「なんか私の心理状態とマッチしているなあ。囲碁なんてやったことないし、どうだろうって思ったけど、でもやりたいって思ってチャレンジしてみました」と語る遠藤さんからは、山城さんにも共通する人間味というあたたかさ・やさしさと、ほんわかした中にもお店に対する熱い想いが伝わってきました。

遠藤「私、囲碁ってオセロと同じだと思っていたのですよ。なので、ルールとか実際教わっていくと、いろいろな技を覚えて楽しくなって。『打手返し』とか『ゲタ』とか…もういろいろ忘れていますけど(笑)、とにかく囲ったらいいっていうのはだんだんわかってきたのですね。でもいつも負けるのです。でもね、すごく楽しくて! 分からないなりに、1個1個毎回いろんなこと知って、一緒にやっている方にも同じような感じの方もいたので、そこで交流が生まれたのですよね」

新たな交流の場を作りたいと山城さんと遠藤さんで今年になってから準備してきた「一冊本屋 青い小窓」ですが、その思いについて山城さんはこう教えてくれました。

山城「本ってどこで売ってもどこで買っても内容は同じじゃないですか。今のご時世だと、本屋よりもAmazonやらメルカリで、安く早く買えちゃいますし。となるとこの本屋に来る意味はどこにあるのだろうって思った時に、本屋さんとなるオーナー店主の人たちの1つ1つの思いがこもっていることが重要だなと思って、天文図舘とは違った手紙の仕掛けを入れたのです」

やはり「ノスタルジー」を大事にする山城さんならではのお店作りだと思いました。そこにあるのは人が感じる「ほっ」とできる手作り感やアナログ感。お店作りに直接囲碁は関係ないとお話されていましたが、やはり囲碁の碁盤上に広がる悠久の時間と空間が、まぎれもなく山城さんを感化させ、新しいチャレンジに突き進ませているように感じました。ぜひ一度、阿佐ヶ谷にお立ち寄りいただき、ノスタルジーを感じる2店舗に遊びにいらしてください。

写真:本屋さんというより、片っ端から青い小窓を開けたくなる旅先のカフェのようだ。いろいろな出会いがありそうだ。

【一冊本屋 青い小窓】
住所:東京都杉並区本天沼1丁目1-1
最寄駅:JR中央線「阿佐ヶ谷駅」
営業日・時間:月火を除く13:00-20:00
貸切利用:3000円/1H(棚店主は1500円/1H)
SNS:X @aoi_komado/インスタグラム @aoi_komado

■時間や空間のノスタルジーを感じてみたい、という方へ


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