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発明家の女流棋士が仕掛ける、囲碁を巡って出会う「アート」な時間

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ひょんなことから「イゴセカ」の記事ライターを仰せつかることになり、囲碁の世界に足を踏み入れつつある筆者ですが、今回ほど囲碁の「ご縁」を感じたことはありません。
2024年5月18日から20日まで、日本棋院東京本院1階ホールAで開催されていた「第2回 囲碁を巡るアート展」(リンク:https://artaroundgo.com/)が開催されると聞き、その主催者のお名前にびっくりしたのです。主催のウィズ工房さん(Xアカウント:https://x.com/withkobo)は以前、全くの別件で取材させていただいたことのある発明家の岡田結美子さん(Xアカウント: https://x.com/taiyumi)の会社だったからです。

目次

傘ホルダーの発明家
発明のきっかけ
発明家と女流棋士
囲碁を巡るアート展
続・囲碁を巡るアート展

傘ホルダーの発明家

岡田結美子六段(リンク:https://www.nihonkiin.or.jp/player/htm/ki000293.htm

昭和45年(1970年)6月22日生。東京都出身。平成元年入段、4年二段、6年三段、8年四段、13年五段、15年六段。故安倍吉輝九段は実父。岡田伸一郎九段は夫。旧姓「安倍」。日本棋院東京本院所属。

岡田さんは「ウィズカサ(リンク:https://store.shopping.yahoo.co.jp/hatsumei-net/ko-37263-uxizuka.html)」という傘の置き忘れ防止に便利な傘ホルダーを発明された発明家で、某展示会にてお披露目されていた時に初めて出会ったのです。

上記写真4枚:電車の中とかで置き場に困る傘ですが、ウィズカサがあればとっても便利!

ちなみにウィズカサの「傘の妖精キャラクター」を描かれているのが漫画家であり岡田さんの実弟でもある安倍吉俊さん(Xリンク:https://x.com/abfly)。ご姉弟とも多才です。

日本棋院で久しぶりに岡田さんと再会し、発明家の岡田さんではなく女流棋士の岡田さんとして取材させていただくことのドキドキはこれまでにない高揚感です。しかも「囲碁を巡るアート展」を陰からサポートされている岡田さんの旦那様で棋士の岡田伸一郎九段もご一緒です。頭の中で聞きたいことがたくさん溢れかえる中、まずは「発明家」の岡田さんが、どうして最初に発明をしようと思ったのかをお伺いしてみました。

発明のきっかけ

岡田さんご夫妻。写真:右側は夫で棋士の岡田伸一郎九段(リンク :https://www.nihonkiin.or.jp/player/htm/ki000219.htm)。伸一郎九段も「確かに発明のアイデアは面白いけど、まさか自分で作り出すとは思わなかった」とのこと(笑)。

「発明のきっかけは、コロナ禍の折、まだパーティションなどが飲食店などに十分に設置されていない時に、ふと扇子を見て『こんな風にパーティションも折りたたんで持ち運べたらなんて良いのでしょう』と思い込んでしまって(笑)、発明を奨励し、科学技術の振興と産業の発展に寄与することを目的としている一般社団法人 発明学会(リンク:https://www.hatsumei.or.jp/)のコンテストに応募したのが第一歩でした」と教えてくださいました。そしてそのコンテストでは一次審査も通過できず「え! なんで!? こんないいアイデアなのに?」と思ったそう。そんな岡田さんはめげるどころか「何としても早く作らなきゃ」との思いで、伸一郎九段がただただその行動力に唖然としている間に、自らの手で開発を進め、ついに商品化にこぎつけます。 ところがやっと商品が出来たときには、世の中のお店にはすでにパーティションが十分すぎるくらい設置されていて、「持ち運びできる」という利点を活かせるタイミングを逸してしまい、全然売れず…。それでも岡田さん、次の発明に挑みます。いつも傘を置き忘れちゃうのをどうにかしたいと思い、傘をつなぎとめるアイテムをまずは自分用に手作りして使ってみます。これがいいアイデアだと確信した岡田さんは、今一度発明学会のコンテストにエントリー! …しかしまた落選。 それでも試行錯誤を繰り返し、商品化にこぎつけます。努力の甲斐もあり、2年連続で梅雨の時期にテレビにも取り上げられるという素晴らしい成果を出すことができたそうです。

発明に没頭する妻にいろいろ文句を言いながらも、家事からペットの世話までサポートして陰ながら応援してくださったというやさしい伸一郎九段(写真左)。とっても仲睦まじいご夫婦です!

発明家と女流棋士

そんな「発明家」の側面が垣間見えた岡田さんですが、では「女流棋士」に何故なったのでしょうか?実はお父様が故安倍吉輝九段(リンク:https://www.nihonkiin.or.jp/player/htm/ki000032.htm)であられることもあり、囲碁には小さな頃から触れてきた岡田さん。しかし意外にも囲碁が最初から好きだったわけでもなく、段位を取ってからその魅力に目覚めたそうです。その魅力とは「将棋などとは異なり、女子も男子と一緒にまったく対等に勝負ができる上に、さらに女子だけのタイトル戦もあるから活躍の場所がたくさんあるところ」だそう。岡田さん曰く、「昔から男子も女子も一緒に打てるという環境だったからこそ、男女関係なく、棋力も上がってきたのではないか」とのお話でした。また伸一郎九段によると「もともと囲碁が中国から伝わったときに、日本では女官など国に使える女性に広まっていった」ということです。歴史の古い競技ながら、今の時代にこそ必要とされるダイバーシティな世界ですね。また「男性より女性の方が陣地を広げるのが得意」という説もあるそうです。将棋が相手の王様を攻め落とすゲームならば、囲碁はいかに自陣の陣地を相手より少しでも(1目の半分でも)多く取れるかを競う陣取りゲーム。同じ盤上の競技でもその魅力は異なるものですね。やはり囲碁の世界は奥が深いです!

囲碁を巡るアート展

さてさて本題の「囲碁を巡るアート展」に入りましょう。「なぜ囲碁にアートを?」という質問に岡田さんは「弟が漫画家ということで、身近にアートがありました。そこで囲碁の普及にアートを利用できないかと思ったのがきっかけです」と教えてくれました。「棋士はサインを頼まれると筆で色紙や扇子に書くという『書』の文化が身近にあります。そこで囲碁とアートの関係性を広めていけたら面白いのではないか」と岡田さんは言います。

師匠の光永淳造六段(リンク:https://www.nihonkiin.or.jp/player/htm/ki000363.html)と弟子の徐文燕二段(リンク:https://www.nihonkiin.or.jp/player/htm/ki000515.html)のコラボ作品。柳澤理志六段(リンク:https://www.nihonkiin.or.jp/player/htm/ki000405.htm)による揮毫も展示されていました。(写真上)
棋士の中にもアーティストとご縁のある方やご自身がアート作品を作られている方もいるそうです。なるほど、囲碁の世界にはこうやって「アート」が巡っているのですね。

写真左:NHK Eテレ「囲碁フォーカス」や「NHK杯テレビ囲碁トーナメント」などでも大人気の安田明夏初段(リンク:https://www.nihonkiin.or.jp/player/htm/ki000516.html)による書とイラスト。とってもかわいいです。

上写真:画家の島村由希さん(X:https://x.com/y__shima)による作品。
島村さんが碁盤と碁石をモチーフに抽象化して描かれた「継続」という作品。普段はテーマを持って作品は作られないそうですが、島村さんご自身が囲碁も嗜まれるそうで、今回は囲碁をテーマに描かれたそうです。そして島村さんが何故「囲碁」にハマったのかというと…。

芝野虎丸九段(リンク :https://www.nihonkiin.or.jp/player/htm/ki000459.html)が打たれている映像を見て、その格好良さと空気感にビビッと来てしまったそうです(笑) それ以来、囲碁の魅力に取りつかれているのだとか。嗚呼、まさに囲碁とアートが巡りまくっていますよっ!!
写真左:島村さんが描く芝野九段。並々ならぬ愛が伝わってきます!


浅学にして初めて知ったのですが、棋士には扇子に書を揮毫する文化があるそうです。左中央「夢」の揮毫は島村さんの推し棋士、芝野九段のもの。その下の扇子のイラスト(左から二人目が芝野九段…笑)も島村さん作です。

今年5月に封切となった草彅剛さん主演の映画「碁盤斬り」(リンク:https://gobangiri-movie.com/)の中で、タイトルの「碁盤斬り」という書を揮毫された金澤翔子さんの作品「吉祥」も展示されていました。

こちらも金澤さんの作品「星」。囲碁向けに書かれた書ではないのですが、囲碁の盤面には9個の「星」があったり、また金澤さんは故藤沢秀行名誉棋聖(リンク :https://www.nihonkiin.or.jp/player/htm/ki000005.htm)ともご縁があったそうで、今回の展示となったそうです。

2022年まで出版された「月間 囲碁未来」の表紙を長年にわたり担当されたイラストレーターの小山真吾さんの「紅葉の家」という作品。小山さんもお父様やお兄様ご夫婦が棋士という囲碁一家だったそうです。

冒頭にもご紹介したかわいい狸さんのイラストは、山田晋次七段(リンク:https://www.nihonkiin.or.jp/player/htm/ki000379.htm)の奥様であり日本画家の荒川由貴さん(X:https://x.com/yukiarakawa777)による「たぬきの腹つづみ」。山田七段による出題を、狸の先生が次はここに白が打つと有利になるよー、と解説してくれています。


そして日本棋院東京本院がある東京・市ヶ谷に居を構える山脇美術専門学校の学生さんに岡田さんが飛び込みで制作をお願いして出来上がったという作品がこちら!


先ほどご紹介した藤沢秀行名誉棋聖や海外でも大人気の武宮正樹九段(リンク: https://www.nihonkiin.or.jp/player/htm/ki000003.htm)の書などがズラリと展示。書も得意だった藤沢名誉棋聖は、岡田さんはもちろん岡田さんのお父様も大変お世話になったという昭和囲碁界のレジェンドです。

写真左:藤沢名誉棋聖門下も書を習っているという書家・柳田泰山先生の作品。

写真右:日本棋院の地下に眠っていたという故加藤正夫名誉王座(リンク: https://www.nihonkiin.or.jp/player/htm/ki000002.htm)の書も。非売品です。

先ほどご紹介した岡田さんの弟である安倍吉俊さんの作品。囲碁をテーマに白黒一対の絵で対峙するものが表現されています。「対戦、黒(リンク: https://www.youtube.com/watch?v=dwQd4o2lHkM)」「対戦、白(リンク: https://www.youtube.com/watch?v=o-TPblA-RkQ)」はそれぞれ作画過程がYouTubeで公開されていますので、ぜひご覧ください。

続・囲碁を巡るアート展情報

こんな感じで、まだまだ見どころたくさんの「囲碁を巡るアート展」ですが、今回の第二回を迎えて手ごたえを感じている岡田さんに、次回の予定もお聞きしました。次回は「囲碁を巡るアート展 ㏌ 学士会館フェスタ2024」と題して、2024年9月1日10:00〜17:00に開催予定とのことです。展示会場は、学士会館4階「囲碁将棋室」となります。最新情報は「囲碁を巡るアート展 公式サイト(リンク:https://artaroundgo.com/)」にてご確認ください。さらに2024年10月13日(日)に平塚市で行われる第27回湘南ひらつか囲碁まつり(リンク:https://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/press/page02_e00001_02529.html)に合わせて開催を検討しているそうです。

そして気になる岡田さんの新発明グッズも、新たな発明コンテスト入賞に向けてすでに構想を練っているそう。岡田さんの溢れ出るパワーと才能に、刺激を受けっぱなしの一日でした。私にとっても今回のイベントは、囲碁から生まれた不思議なご縁。まさに囲碁を巡ってたどり着いた、アートで素敵な空間でした。囲碁の魅力がアートに乗せてもっともっと広がりますように!!

【関連リンク】
囲碁を巡るアート展 公式サイト(リンク:https://artaroundgo.com/
囲碁を巡るアート展 公式YouTube(リンク:https://www.youtube.com/@ArtaroundGo
※過去のイベントの様子もご覧いただけます

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